nananashinaの日記

禁欲・禁酒で人生を立て直す

日報20日目 ルドラの秘宝

儲かる副業は無いだろうか。

まともな仕事は儲からない。非合法な仕事は危険だ。

 

「非合法な、危険なことだからこそ、儲かるんだよ」

 

武田はそう言い、笑った。

狭く暗い部屋に武田はいた。

黒い円筒形状のゴミ箱が壁際に3台並んでいる。

 

「そいつはコンピューターだ。触るなよ」

 

この黒いゴミ箱が?

ゴミ入れ口に手をかざすと、生暖かい冷却ファンの風が当たった。

本当だった。

 

武田のテーブルは光っている。

よく見るとテーブルではなく、巨大な液晶タブレットだった。

アニメスタジオの作画の人が使っているような恐ろしい代物。

 

武田はデジタルドラッグを作っている。

 

本当のドラッグでも、アルコールでも無い、デジタルなヤバい薬。

これをちょっとでも脳内に入力してしまうと、もう戻れない。

次から次へと欲しくなって、永久に購入ボタンをクリックし続けるしかない。

 

もちろん、非合法だ。

 

「でも、すげえ儲かるからな」

 

武田は言い、笑ってみせる。

 

デジタルドラッグは法律で禁止されている。

作ることはもちろん、保持することも禁止されている。

デジタルドラッグそのものではなく、デジタルドラッグを暗号データから復元するためのソフトですら禁止されている。

 

だけれど、その法律は一般流通を防ぐことはできても、水面下のアナログなやりとりに対処することはできない。

 

入手しようとして、googleで検索しても、勿論、出てこない。

だが、ちょっと調べれば探し方は見つかる。

『ルドラ ダウンロード』と入れれば簡単に怪しげなサイトが出てくる。

サイズは1.1Mbyteと軽量だ。3.5inchのフロッピーディスクにも収まってしまう。

 

しかし、展開すると12Gbyteくらいの動画ファイルに膨れ上がる。

元のデータはアルゴリズムに過ぎず、そこから自動生成された動画こそが本体だ。

 

一度でも視界に入れたら、もう、意識を全て持って行かれる。

見るのをやめよう、停止しよう、パソコンを閉じよう、そういう無意識からの真摯な警告は全てねじ伏せられる。

 

磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、そこにはもう主体性はない。

磁力線を幾何学的模様に可視化する砂鉄と同様、人間も情報線に向かって直角になる。

 

ルドラは強烈な情報だ。

 

その情報は言葉ではなくて、意識に直接刺さり、影響をもたらす。

強い放射線に曝されたDNAがダルマ落としのように情報を欠落させるように、ルドラも人間の意識を破壊する。

 

ルドラは情報型兵器なのかもしれなかった。

直接、ナイフで刺されるよりたちが悪い。精神を破壊する兵器。

 

武田はしゅっしゅっとペンを走らせる。

ルドラが緻密な描線によって構築されていく。

 

武田自身はルドラの毒でやられることはないんだろうか?

 

「やられているさ。ラーメンが好きじゃない奴がラーメン屋になるはずがない」

 

武田の手元は常に全世界に配信されている。

ルドラを描写する行為自体が既にマネタイズ対象になっている。

 

武田の本棚に、蛇のフィギュアが飾ってあった。

その蛇は変な形をしていた。自らのしっぽを口の中に含んでいた。

結果として、その蛇は真円を描いていた。

 

もしもそのまま飲み込み続けたらどうなるのだろうか。

 

最終的には消えて無くなってしまうのではないだろうか。

 

ルドラに魅せられた武田はいつしかルドラそのものになり、そのうちルドラに飲み込まれてしまう。

その時、武田は消えてなくなってしまうのだろうか?

 

ルドラの秘宝

蛇のフィギュアの台にそう書いてあるのを見つけ、私の背筋が凍りついた。

そして、早くこの家を出ないと危ない、と切実に思う。