nananashinaの日記

禁欲・禁酒で人生を立て直す

戦闘12日目

『禁酒セラピー』という本の中の、食虫花のエピソードが好きだ。

 

自分なりにリライトしてみる。

 

ウイスキー色のプール

 

食虫花は如何にも悪そうな見た目である。

明らかに捕って食われそうな、危険を感じる形をしている。

 

壺のような液溜まりには強酸の溶解液がたっぷりと溜まっている。

小さなラッパ状の入り口。そして複雑でツルツルとした細い通路。

あそこに入っていったら危なそうだという雰囲気を隠そうとしていない。

 

ただ、とても甘くて蠱惑的な匂い、フェロモンを撒き散らしている。

それは、猥雑で妖しく、どこか心をざわつかせる魅力がある。

 

一匹のハエが入り口に近づく。

もちろん、ハエは利口なので、これが危ない花だと知っている。

 

警戒しながらゆっくり近づき、そして入り口に垂れている蜜を吸う。

とっても、美味しい。今まで、こんな美味しい蜜を吸ったことがない。

 

もうちょっと奥まで身体を入れ、蜜を吸う。

何か変な動きを察したら、いつでも戻れるように警戒しながら。

 

意外なことに、食虫花は動きがない。

試しに花の外へ逃げてみる。簡単に逃げられる。なんだ、ちょろい。

 

調子に乗って、どんどん奥の蜜を吸いに行く。

奥に行けば行くほど濃厚な蜜になる。すごい。天国みたいだ。

しかもリスクはほぼゼロだ。危険だと噂されてはいたが、そんなことはない。

 

細い通路をぐんぐんと進む。

まだ大丈夫。まだ問題ない。

 

そして、ハエはどんどんと奥へと進んで行く。

冒険をしているような勇ましい気持ちで。

 

戻れなくなる『デッドポイント』へ向かって、進んで行く。

 

自分は大丈夫。

まだ正気だ。まだいつでも花の外へ逃げられる。

 

まだ飲める。

まだ若い。

まだ大丈夫。

まだいつでもやり直せる。

まだ正気だ。

やめようと思えばいつだってやめられる。

 

突然、通路の傾斜が急になる。

おや? と思う。

蜜が粘り気を増す。壁の摩擦がゼロになる。

冷や汗。

 

戻ろうとする。手が滑る。蜜と共に滑り落ちていく。

遠くに大きなプールが見える。

今まで飲んできた蜜の色の、何百倍も濃い色の液体で満たされたプール。

 

ウイスキー色のプール。

 

叫び声を上げると同時にプールに飲み込まれ、溶解する。

完全な溶解は5分も掛からなかった。

もちろん、完全溶解の4分前には絶命していた。

 

「あいつ、まだ落とせないのか?」

男は女の腰を撫で回しながら言った。

 

「あいつはもう半分以上落ちてるよ。あとは時間の問題」

女はスマホをいじりながら答える。

「もう一日中、私の身体ばかり見てる。本当、気持ち悪いくらい。

 あいつ、いつでも簡単に私の誘いに乗ると思うよ」

 

「そうか。頼むぞ」

男は女の首筋に舌を這わせる。

「いいか。明日の昼休み、あいつを外へ呼び出せ。その間に金庫ごと失敬する。金は山分けだ」

 

薄暗いベッドルームは濃厚なウイスキーの香りが充満している。

まるでウイスキーで満たされたプールの中にいるみたいだ、と女は思った。