nananashinaの日記

禁欲・禁酒で人生を立て直す

禁欲・禁酒5日目

禁欲はゲームだ。禁酒はスポーツだ。

 

ドラゴン桜メソッドに基づいた禁欲・禁酒生活

 

と、適当にタイトルを考えてみたものの、特に中身は考えてないのだった。

とはいえ、課題解決や問題達成をゲーム化して楽しんで進めるというのは面白そうである。

 

スマホやゲーム機についている加速度センサを利用して、

『歩けば歩くほどゲーム内のお金が貯まる。エネルギーが貯まる』

などという仕組みは多く見受けられる。

 

禁欲や禁酒も、ただただ我慢して辛いだけでは続かない。

報酬があったり、自分の能力が向上したり、気分がよくなったり、優越感に浸れたりする仕組みがあると良い。

 

禁欲・禁酒5日目の効果

正直なことをいうと、心と身体がすごい勢いでデトックスされてる感じを受ける。

 

エロ禁については、今回、かなり徹底的にやっている。

こんなに長期間(とはいえまだ5日間だが)、エロ情報(以下、p)に触れなかったことは、今までの人生ではなかったと思う。

スマホがあれば、2秒でpを摂取することができるのが今の時代だ。

無料で。際限なく。どんなものでも。

 

いつしかそれを普通と考えていて、暇だなと思ったらすぐp、みたいなことが多々あった。

本来は異常なのだが、それに気づくことができないくらい、異常に慣れていた。

 

pを摂取すれば、脳内ネットワークがpに影響される。

pは次なるpを呼ぶ。さらなる快楽物質を分泌させるために。

量と濃度が増えていく。増えていくと、調整が入り快楽物質受容体が減少する。

すると今までのpでは反応が悪くなり、もっと多くの濃いpを求めるようになる。

 

この5日間、pを絶った。

完璧に絶った。コンビニの漫画雑誌の表紙を横目で見たくらいだった。

 

p入力を絶つと、脳内ネットワークは、「あれっ?」という風だった。

妄想が湧き上がった。鮮明なイメージが脳裏に浮かんだ。

でもそれは『牛の反芻』のようなものだった。

浮かび上がっては、燃えて、消えていった。

脳内に放り投げられた不完全燃焼だった燃料が燃えて灰になっていくようだった。

 

私はそれを弔うように眺めていた。

まあ、まだ5日目でしかないから、そんな余裕もあるのかもしれない。

 

心が浄化される……などと書くと、おやおや、胡散臭い感じになってきたぞと思われるかもしれない。

だけれど、これは言わば断食のようなものである。

半日何も食べない、みたいなことをすると、もちろんおなかは減るが、妙に身体が軽くなる。

働き続けていた胃が休み、その他の臓器も休む。

腸は軽く運動することでクリーニングし、溜まった毒素を外へ出していく。

 

情報入力も食事も同じようなものであり、たまには休むのも大事なことだ。

特にpはアルコール(以下、a)のような依存性の高い毒である。

 

禁欲・禁酒は、そのまま心と身体の浄化に等しい。

汚れきったパイプに、綺麗な水だけを流すのに似ている。

汚れが落ちていく。頑固にこびりついた汚れもいつか剥がれて流れていく。

 

禁欲・禁酒5日目は私にそんなイメージを見せてくれる。

 

「世の中、そんな綺麗事は通用しねえぞ」

 

私が自分の部屋の漫画本を処分しようとして山にまとめていると、突然背後から太い声が聞こえた。

振り返る。

するとそこには見たことのないおっさんがいて、レモンチューハイ9%を片手にあぐらを組んで座っている。

ひどく太っていて、性格の悪そうな顔をしていて、白いタンクトップが薄茶色に汚れている。

 

「俺はお前だ」

 

おっさんは言う。

 

「俺はお前の本当の姿だ。証拠はこれだ」

 

おっさんは私のiphone6を手に取り、指紋認証をクリアしてみせる。

冷や汗が出た。正直、一目見た瞬間から、嫌な予感がしていた。

なんとなく、自分に似ているような気がしていたのだ。

 

おっさんはそんな私の動揺を見て、小さく汚く笑う。

チューハイを飲み干し、ウイスキーの小瓶をポケットから出す。

 

「ほら。飲むか?」

 

私は首を横に振る。ほぼ反射的に振る。痙攣のように振る。

 

「ちいせえ奴だな。そんなんだから仕事も人生も何もかも上手くいかねえんだ」

 

おっさんは琥珀色の液体を見せびらかすように飲む。

そして、私のiphoneをいじりながら、唐突に変なことを言う。

 

「お前、プロレス嫌いだろ?」

 

え?

 

「筋肉つけて、男臭く戦う。殴ったり蹴ったり投げたりしてさ。

 暴力だ。相手を叩きつけて、汗と血を流して、そしてバカみたいに食べて

 酒飲んで、女を抱いて」

 

……別に好きでも嫌いでもないけど。

 

「いや、そういう生き方できないだろ? ていうか、しないだろ?

 したくないだろ? プロレスってのは、まあ、比喩みたいなもんだ。

 とにかく、そういうワイルドな自分勝手な生き方ができないだろ?」

 

……まあ、できない。

 

「それが、小せえって言ってんだ。エロや酒を断つ?

 心と身体のデトックス? しゃらくせーよ。わかるか?

 俺の言っている意味、理解してるか?」

 

聞いてるけど。

 

「聞いてるけど理解はしてないだろ?

 ただの汚いおっさんのわめきだと思ってるだろ?

 エロと酒に溺れた、典型的なダメ的存在のおっさんの暴言だと思ってるだろ?

 違うんだよ。違うんだ。わかってないんだよ。お前は全然わかってない」

 

……

 

「お前は、◯◯しない、◯◯◯しない、◯◯◯◯しない……と『しない』だけを並べてる。

 俺は違う。◯する、◯◯◯する、◯◯◯◯する。「する」だけを並べる。

 どっちが優れてる? どっちに可能性がある?

 お前はしない。俺はする。もちろん、お前は『酒とエロだけをしない』とか言うんだろうが、それは違うぞ?

 そうやって『しない』を選択する奴は、他のいろんなことも『しない』を選択する。

 そういう性格だからだ。俺は違う。する。とにかくする。なんでもする。酒もエロもだ。

 神はどっちを選ぶ? どっちが生命として強い? どっちが大きなことを成し遂げる?」

 

おっさんは立ち上がる。

そして、窓辺に立ち、窓を開け、窓枠を乗り越える。

 

「今、デリヘルを呼んだ。女を抱け。俺になれ」

 

おっさんはそのまま2階から飛び降りる。

どすん、と鈍い音がし、でもそのままスタスタと道路を歩いていく。

 

……なんだったんだ。

呆気にとられていると、ふと、iphoneが鳴る。

電話に出ると、デリヘル嬢からだった。着きましたー、と言う。

 

玄関を開けると、茶髪の髪の毛を巻き巻きしたギャルがいる。

おじゃましまーす、と言って入ってくる。

 

わー、部屋の整理してたんですねー、ちょっと、コートここに掛けていいですかー。

嬢がコートを脱ぐ。たわわな胸がTシャツ越しに揺れる。

極端に短いホットパンツからはむちむちの太ももが露わに見える。

 

あの。ちょっといいでしょうか?

なんですかー? あ、ここでもう始めますかー?

いえ、始めません。ちょっと話を聞いてください。

はい?

ちょっと説明するのは難しいのですけど、実は今、エロを絶っています。

で、そんな私を面白がって、悪い奴があなたを私の元に呼んだのです。

でも、あなたも仕事でしょうし、呼んでしまったのも事実ですからお金は払います。

お金は払いますが、いわゆるそういうことはしません。

……はあ?

 

嬢はわかったようなわからないような顔をし、とりあえず、じゃあ、今から90分開始します、と携帯で電話をする。

私は財布からお金を出し、嬢に渡す。

本当にいいの? と言われ、勉強代だからいい、と私は言う。

 

私は本の片付けを再開する。本のサイズを合わせて、ビニール紐で縛っていく。

嬢はその様子を見たり、携帯をいじったり、メイクを整えたりしている。

 

ダンボール3箱分にまとまる。

これを古本屋に持っていく。人生を変えるには、まず持ち物からだ。

 

嬢は暇を持て余し、ベットに横になる。

そして、地声の、低く聞き取りにくい声で言う。

 

お客さんは女性に興味がないんですか?

 

……いえ、あります。人一倍あるかもしれません。

 

じゃあ、ちょっと抜いてあげましょうか?

 

結構です。

 

……童貞ですか?

 

童貞です。

 

……まだ時間あるし、しちゃいますか?

 

しません。

 

なんで?

 

なんで、なんでしょう。

 

……しない、しない、ばかり言ってるから、じゃない?

怖いんでしょ? 本当は。

隣のブドウはすっぱいに違いない、みたいな。

 

……

 

やってみれば、わかると思うよ。

食べてみればわかると思うよ。ブドウの本当の味が。

 

そう言い、嬢は目を細める。

まるで獲物を見つけた猫のように、美しくも邪悪に笑う。

そして、Tシャツに手を掛け、脱ぎ始めたところで嬢の携帯が鳴り、時間が終わる。

 

いつでも呼んでいいからね。

 

嬢はそう言って、名刺を置いて、帰っていく。

 

 妄想が攻め寄せる

禁欲・禁酒5日目。

妄想を書くことは、禁欲に反していないのだろうか?

宗教のルールでは、妄想も禁止されているものが多い。

 

「……でも、世の中、綺麗事だけじゃないからな」

 

私はパソコンを前にぽつりと独り言を吐く。

着ているタンクトップに薄茶色の汚れが付いている。